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海中発音生物(テッポウエビ類)を用いて沿岸域環境モニタリングに関する研究 |
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世界中の海域に生息し、特徴的なパルス音を終始発しているテッポウエビの1分間当たりの発音回数(パルス数)を測定し、海域の生物生息環境の良否を簡易に評価する手法を開発した。 本評価法は現場で誰でも簡単・迅速に水域の生物の生息状況を測定できることを最大の特徴としている。 |
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背景と目的 |
生態系への環境影響を調べるには、生物の生息数や活性状態を調べることが不可欠である。しかし、水中における生物調査は採取に多大な時間と労力、生物分類などの専門知識が必要となり大変難しいのが現状である。 本研究では、海中生物の生息状況や水質環境を簡易に調べるための、水中音響を利用した手法を提案し、誰でも簡単に操作できる計測機の開発を行うものである。本手法により水質測定値からは見落とされがちな環境改変・悪化による生物への影響を調べることが可能となる。 |
生息域 | 沿岸の浅海、潮間帯に生息する。砂泥底に複雑な形のトンネルを掘り、雌雄ペアで生活する。 日本沿岸域の主な生息種 テッポウエビ イソテッポウエビ オニテッポウエビ テナガテッポウエビ |
繁殖期 | 季節(水温)変化がなければ、全シーズン。日本では夏期に盛期を向かえる。 |
特徴@ | 巣穴を仲介として、ハゼ科魚類との間に共生関係を持つ。 |
特徴A | 天ぷらノイズと呼ばれる独特のパルス音を発する。 「snapping」「pistol」エビとも呼ばれている。 ★急激に第一脚の片方が大きいハサミをを閉じることで、水の噴出を伴い大きな音を起こす。
★発音は敵対者に対する威嚇や防御、捕食を行うために相手を脅かすために行う。
★この個体群が発する高いレベルの音は自然界の中で他に相当するものはない。
★重複する世代が維持されることによりパルス音は季節的な連続性を持つ。
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研究 | テッポウエビに関する生態学、分類学上の研究以外には、パルスを発する理由に関する研究や、潜水艦の聴音機との関連で軍事的な研究などが見受けられるが、生息量や漁獲量などの調査データは、漁業価値の低さもありほとんどないのが現状です。 |
テッポウエビ類の1分間当たりの発音回数をパルス数[回/分]と定義し、環境指標として用いる。このパルス数の多寡を調べることで、海域の水質汚濁の程度や環境改変による生態系への影響をモニタリングする。パルス数の測定は、水中マイクで水中音響を2分間程度録するだけである。
□ 発音を利用 テッポウエビのパルス音は特徴的で判別しやすい。 継続時間:およそ1msec 周波数のピーク:2〜9kHz 生物を直接採取するのではなく、生物の発する音を利用することで一度に広範囲の生息状況や生物活性を調べることができる。
□ 世界中の砂泥底に分布 調査に時間と場所の制限がない
□ 漁獲されていない 人為的な攪乱が少ない | |
□ 定点モニタリング 定点観測において、平常時のパルス数を把握しておけば、環境改変や水質汚濁に起因するパルス数の変化を検出することが可能である。
水質汚濁の監視
沿岸開発事業・保全事業の事前事後評価 | |
地点間の比較 | 水深・底質などの環境条件が異なるので地点間の比較は難しい |
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水質とパルス数の関係 | 水域の汚濁状況とパルス数には関係性が見られる |
| 水環境の健全性の指標 |
テッポウエビ類の分布 | テッポウエビ類の発音について1967年に長崎大学の竹村氏らにより観測されたデータがある。この時の発音の有無から生息北限は津軽海峡(北緯41o1’)であったと報告されているが、2000年代の本研究の調査では、日本最北端の宗谷岬でもパルス数の発音が観測されている。およそ30年間の間にテッポウエビ類の生息域が変化していると予測される。安易に地球温暖化と関連づけるのは問題であるが、その影響を排除することはできない。
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| 地球規模的な環境変化の監視 |
| 水中生物量や活性度の時系列的なデータ |
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テッポウエビ類のパルス数観測による本手法は、複雑さを増す海域の水環境を総合的に評価する生物指標の一つとして、海域環境管理の場で役立と考えている。 |
科学研究費補助金 (基盤研究C) | 赤土等流出問題を抱える沖縄県海岸部における海中生物音指標を用いた環境評価 | R2.4〜R6.3 |
科学研究費補助金 (基盤研究C) | 沿岸域生息場評価GISシステムのためのテッポウエビ類分布情報の活用に関する研究 | H24〜H27 |
科学研究費補助金 (若手研究B) | 海域底生生物の生息状況を簡易に観測する計測器の開発 | H20〜H21 |
科学研究費補助金 (若手研究B) | テッポウエビ類の発音計数による浅海域環境評価法の実用化に関する研究 | H17〜H19 |
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